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福岡地方裁判所小倉支部 昭和58年(ヨ)143号 決定

事件

債権者

横松宗

右訴訟代理人

清源敏孝

石井将

債務者

学校法人八幡大学

右代表者理事

安田幹太

右訴訟代理人

三代英昭

阿部明男

小柳正之

辻正喜

(福岡地裁小倉支部昭五八(ヨ)第一四三号、地位保全等仮処分申請事件、昭58.5.20第二民事部決定、認容)

主文

一  債権者が債務者に対し雇傭契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

二  債務者は債権者に対し、昭和五八年四月一日以降昭和五九年三月三一日まで、毎月二五日限り一か月金三四万九、七〇〇円の割合による金員を仮に支払え。

三  申請費用は債務者の負担とする。

理由

一件記録によれば、債権者は債務者から昭和五八年一月一日、契約期間を同日から同年三月三一日までと定めた上、その経営する八幡大学の専任嘱託教授として雇傭されたものであるが、右の雇傭契約については、形式はともかく、その実態は、一応契約期間の定めはあるものの、債務者の内規に従い、任期一年の専任嘱託教授として、昭和五四年四月一日以降既に数回に亘り反覆更新されてきたものであること、内規の定める契約可能な最終期限は債権者が七〇才となる年度末である昭和五九年三月三一日であること及び同大学における過去の実績をみるに、六五才の停年を迎えた専任教授が嘱託を希望し且つ教授会の推薦決議があるときは全て七〇才に達した年の年度末まで専任嘱託教授として雇傭されてきており、条件を同じくする債権者独りが例外的に取扱われるべき合理的理由はなく、債権者としても昭和五八年三月三一日の期間満了後も昭和五九年三月三一日まで今一回の更新継続を期待し信頼すべき客観的状況にあつたことが一応認められる。

右認定の事実によれば、債権者債務者間の雇傭契約は既にして期間の定めのない契約と実質的に異らない状態で存続していたということができるから、債務者において昭和五八年三月三一日の期間満了を理由に傭止めをすることは解雇に関する法理を類推してその効力を判定すべきところ、前認定の債権者雇傭の実態と残存雇傭期間に照らせば、たとえ申請外中里講師の採用に当り債権者の進退について若干の議論があつた経緯を考慮し且つ私学における人件費節減の必要性を三思しても、なお右傭止めの相当性を首肯しがたいし、他にこれを正当とすべき特段の事由を窺わしめる疎明はないから、右傭止めは結局労使の信義則上許されない無効なものといわなければならない。

してみれば債権者は今なお八幡大学専任嘱託教授の地位を保有するというべきであるが、地位保全の必要性について、記録によれば債権者は昭和五八年三月当時債務者から月額三四万九七〇〇円の賃金の支給を受けて生計を維持していたことが一応認められるところからすれば、生活費の確保という経済的必要性があることもさることながら、同時に債権者の場合は、その職業の特殊性に鑑み、残り少ない一年足らずの期間、教育者としての実践の場を奪われないことの精神的な利益ないし必要性を無視することはできないのであつて、この意味において本申請における地位保全の必要性の存在を優に肯認することができる。

よつて、債権者の本件仮処分申請は理由があるから、保証を立てさせないでこれを認容することとし、申請費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(鍋山健 渡邉安一 渡邉了造)

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